【必見】Amazonでお得に買い物して1000ポイントもらう方法

ホームレス

「ちょっとすいません。竹内さんですよね?」

「…..んっ?」

突然話しかけられたホームレスの男がハッとして目を覚ますと、目の前に赤いスーツを着た若い男が中腰で立っていた。口元にマイクを持つその男は不気味なほど白く光る歯を見せてニコニコして立っていた。

「竹内さんですよね?」

ホームレスが汚れた毛布を口元まで上げたまま困った様子でいると、赤いスーツの男はマイクをホームレスの口元に運んで言った。

「….確かにそうだけど、あんた誰?」

ホームレスは突然の訪問者に警戒した口調で答えた。真冬の朝方の空気はよく冷えていて息が真っ白になってしばらく残った。

「やっぱりそうだ!いやーずっと探してたんですよ。こんなところにいたんですね」

「…..」

眠気が薄れ、段々と意識がハッキリしてきたホームレスは毛布の中に隠したバールに手を伸ばそうとした。10年間ここで寝泊まりしているとこういう展開は何度もある。昔一緒に寝ていたホームレスの仲間はオヤジ狩りで酷い目にあり、ここを出ていった。でもこのホームレスの男は何度襲われてもここを動くことはなかった。ホームレスのコミュニティーは新参者に厳しい。ましてや10年もホームレスをしていると新しいコミュニティーのルールに従うことが癪で、動くのが面倒になる。それくらいなら自分で敵を撃退した方がよっぽど良い。

「(…しかし)」

ホームレスの男はバールを掴んだまま考えた。今回の場合はいつもと少し趣が違っていた。オヤジ狩りにしては多少着ているものが大げさだし、全員がやけに幸せそうなニコニコした表情で橋の下に集まっている様は初めてだった。

「みなさん、ついにこの時が来ました。本物の竹内さんです!いやー長かった。10年ですよ、10年」

赤いスーツの男はホームレスから離れカメラに向かって笑顔で言った。

「….(んっ、カメラ?)」

ホームレスが目を擦りながら辺りを見渡すとそこにはカメラマンの他にも様々な機材を持った人たちが大勢いて、1人のホームレスを取り囲むように立っていた。

「あんた達何だ?テレビか?」

「そうなんです!我々はあるテレビ番組のロケでここに来てるんですよ!しかも今は生放送中なんです。ほらここのカメラを見て下さい。今竹内さんは全国のテレビに映ってるんですよ!」

どうやら赤いスーツの男はタレントらしかった。テレビなんてホームレスになってからの10年間1度も見る機会がなかったから今流行りのタレントなんて誰かも知らなかった。

「ちょっと、困るよ。いきなりカメラなんて来ても。しかも生放送なんだって?やめてくれよ。俺なんか映さないでくれ」

自分を取り囲んでいる人たちがテレビクルーだと分かると男には別の怒りが沸いてきた。自然にバールを握った手に力が入った。ある意味ではオヤジ狩りよりも厄介な連中だ。

タレントの男は「まあまあ」と言いながら不機嫌になるホームレスを宥めつつ喋り続けた。

「実は今日は竹内さんに大事なお話があってみんなでやってきたんですよ。本当に大事な話なんです。なんていったらいいんでしょうか、竹内さんの人生に関わることとでも言った方がいいんでしょうか?」

タレントの男の表情が真剣になったところでカメラがグイっと二人の間に入り込んだ。

「人生に関わるって何なんだよ?」

ホームレスはタレントの男の言ったことが気になりつつ、警戒心を解かないまま尋ねた。

「竹内さん、今日が何の日か覚えていませんか?」

「えっ、今日?いや、覚えてねえな」

「まあ、そうですよね。覚えてないというよりも竹内さんにとっては忘れたい日ですからね!よし、じゃあもったいぶらないでこちらからお教えしましょう。今日はズバリ10年前に竹内さんが電車の中で痴漢をして逮捕された日なんですよ!!10周年記念の日なんです!!」

「痴漢」という言葉を聞いてホームレスの頭の中にあの忌まわしい記憶が蘇ってきた。10年前、通勤電車の中で痴漢としてその場で逮捕されたあの日。その日のうちに会社をクビになり、妻が子どもを連れて家から出ていき、被害者との調停で全財産を払い、一文無しになったあの記憶。もう二度と思い出すことは無いまま人生を終えるはずだった。

「帰ってくれ!」

ホームレスの男は立ち上がり、手にしたバールを振り回した。顔を近づけていたタレントの男は腰を抜かして思わず後ろにのけぞった。マイクは手を離れ遠くの方へ飛んで行った。

「あんたらは何なんだ!人の過去を掘り返しやがって!俺の人生はあの時メチャクチャになって今はこんな生活してんだ!本当は痴漢なんてしてないんだ!なのに誰も俺の言うことを聞かずにいつの間にか容疑者扱いされたんだ!こんな理不尽なことがあるか!あんたらに俺の気持ちが分かるか!」

一人興奮するホームレスとは逆にテレビクルーたちは冷静で、寧ろ待ってましたとでもいった薄笑いを浮かべながらホームレスの男を見ていた。

「まあまあそんなに興奮しないで下さい。竹内さんがお怒りなのは分かりますがね」

タレントの男が飛んで行ったマイクを拾い、再び自分の口元に運んだ。

「どうしましょうか、これ以上引き延ばすのは僕としても少し心苦しいのでもう見せてしまいましょうか。竹内さん、これを見て下さい!!バン!!」

そう言って男は後ろから飾りのついたボードを取り出した。そこには大きく「ドッキリ大成功!!」と書かれていた。

「…なんだこれは?」

困惑するホームレスの男の肩に手を載せ、タレントの男は言った。「全部ドッキリだったんですよ!痴漢から離婚から、何から何まで全部番組の企画だったんです!!」

「…..そうなの?」

「そうなんです!実は10年前に奥様から「浮気癖がある主人を懲らしめて欲しい」という依頼がありまして、我々の企画がスタートしたんです。足掛け十年、いやー長かった!」

「….じゃあ、痴漢は?」

「あれは私たちが用意したグラビアアイドルに被害者役になってもらったんです。もちろん乗客も全部役者です。竹内さんは痴漢なんてしてないですよね」

「…じゃあ、離婚は?」

「あれも全部ニセモノです。竹内さんは今でも結婚したままですよ。奥さんは10年間竹内さんのことを見ていたんです。ほらあそこに隠しカメラがあるでしょ」

「えっどこ?」

指をさされたところを見ると確かに陸橋の大きなネジの部分がカモフラージュされているカメラになっていた。

「今も奥さんは見てますよ。ほら、手を振ってみて下さい。「俺は元気だよ~」って言って下さい」

「….はは」

ホームレスは苦笑いでカメラに向かって手を振った。

「いやー、10年間本当にお疲れさまでした。僕たちとしてはいつ自殺するんだろうと少し心配はあったのですが、予想以上に面白い画が取れましたよ。特にオヤジ狩りの若者を撃退している様子は最高でしたよ。視聴率もアゲアゲで我々としては嬉しい限りです。ここ数年は番組内で竹内さんしか取り上げてないですからね。そのうちご本人がテレビを見てそれに気づくだろうと思ったんですが、竹内さんは中々テレビを見なかったので丁度10周年の区切りとしてドッキリをばらしてしまおうと思ったんです。でも大成功で良かったです!10年間お疲れさまでした!」

「….ありがとう」

「それじゃあ10年ぶりに家に帰りましょうか。お子さんも今では立派になってますよ」

「あっ、そうなんだ。それは良かった」

「家に着いたらまず何がしたいですか?」とタレントの男は尋ねた。

「そうだね、まずは嫁をバールで思いっきりぶん殴りたいかな」

「はっはっはっは!冗談は格好だけにして下さいよ!そんなことをしたら本当に逮捕されちゃいますよ!」

「…はは。そうだよね」

ホームレスの男はバールを放し、テレビクルーが用意した車に乗り込んだ。


「すいませーん。お父さん大丈夫ですか?こんなところで寝てたら凍死しちゃいますよ」

警察官はライトをホームレスの顔に当ててみた。しかし何も反応はなかった。もしやと思い脈を取るともう既に冷たくなっていた。

「はあー、また凍死かあ」ともう一人の警察官が言った。「どうしてこんなところで寝るのかね」

「でもまあ凄く幸せそうな顔をしてるよ。自分の人生がドッキリだったっていう夢でも見てるうちに死んじゃったんじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント