ピアノを弾いている人の中でショパンの名前を知らない人はおそらくいないのではないでしょうか。
クラシックに詳しくなくてもテレビのCMなどでショパンの曲を耳にすることはあるはずです。
一番有名なのが太田胃散のCMですね。
他にも「子犬のワルツ」や「別れの曲」など有名な表題がつけられている曲もあります。
曲の難易度も初心者向きから超上級者向けまで幅広く、アマチュアピアニストの間でももっとも人気がある作曲家の一人です。
ちなみに私が一番最初に弾いたショパンの曲はマズルカ(何番かは忘れました)で、その後はワルツop.64-2や幻想即興曲などを弾きました。
ところで、毎年ポーランドではショパンの名前を冠したショパン国際ピアノコンクールが開催されます。
このピアノコンクールは数あるピアノコンクールの中でももっとも権威あるものとして数えられ、優勝すれば世界的な名声とピアニストとしての地位が約束されます。
今回はこのショパンコンクールで優勝したピアニストたちの演奏を第一回(1927年)から聴き比べてみたいと思います。
ショパンピアノコンクールについて
優勝者たちの演奏を聴き比べる前に、知っているようで意外と知らないショパン国際ピアノコンクールについてちょこっと紹介します。
世界最古の国際音楽コンクール
ショパン国際ピアノコンクール(Międzynarodowy Konkurs Pianistyczny im. Fryderyka Chopina)はポーランドで5年に1度開催される国際音楽コンクールです。
1927年に第一回が開催され、現存する国際音楽コンクールの中では最古のコンクールとなっています。
クラシックのコンクールは何百年も前からありそうですが、意外と歴史は浅いようです。
開催しているのはポーランド国立ショパン研究所で、よくチャイコフスキー国際コンクールとエリザベート王妃国際音楽コンクールと共に「世界三大コンクール」と数えられます。
課題曲はショパンのピアノ曲のみ
チャイコフスキー国際コンクールとエリザベート王妃国際音楽コンクールは、「ピアノ部門」「チェロ部門」「ヴァイオリン部門」などがあります。
しかしショパンコンクールは「ピアノ部門」のみとなっています。
これは大会の名前を冠するポーランドの作曲家・ピアニストのショパン自身がピアノ独奏曲しか残していないことに由来します。
ショパンコンクールは「ピアノの詩人」と称されるショパンの真の解釈者を発掘することを理念として開催されるので、ピアノ部門しかないのです。
そのため、コンクールで弾く課題曲は全てショパンの曲となっています。
まさにショパンの為に開催される音楽コンクールなのです。
出場制限
コンクールの出場資格には16歳以上30歳以下という厳しい年齢制限があります。
2005年までは27歳以下だったものが、2010年に緩和されて現在に至ります。
審査の流れ
ショパンコンクールの審査の流れは以下の通りです。
- 予備審査:書類提出(国際的に著名な教授かピアニストの推薦状と音楽歴), DVD提出
- 予備予選:現地演奏(開催期間前)
- 一次予選
- 二次予選
- 三次予選(準本選)
- 本選:ピアノ協奏曲
一番最初の書類審査からハードルが高いです。国際的に著名な教授とどこで知り合えばいいのかもわかりません。
使用ピアノ
現在使用されているピアノは以下の通りです。
- スタインウェイD-274(スタインウェイブランドは1927年第1回から採用。)
- ヤマハ CFX(ヤマハブランドは1985年第11回から採用。)
- SHIGERU KAWAI SK-EX(カワイブランドは1985年第11回から採用。)
- ファツィオリ F278(ファツィオリブランドは2010年第16回から採用。)
ちなみにスタインウェイの中古はアマゾンで買えます。1300万円ぐらいです。
ヤマハも買えます。
以前はベーゼンドルファーが使われてましたが、敏速性が要求されるショパンの曲には鍵盤が重すぎるという理由で近年は使われなくなったそうです。
ファツィオリは1981年に創業した比較的新しいピアノメーカーですが、今ではスタインウェイと比べられるほどの知名度になりました。
ファツィオリはネットでも価格が公開されていないのですが、世界でもっとも高価なピアノだと言われています。
歴代優勝者
それではショパンコンクールの歴代優勝者たちの演奏を聴きましょう。
第二次世界大戦中に中断したこともありますが、これまで17回開催されています。
「1位該当者無し」が何度かあります。また古い時代のものは映像が残っていません。
またショパンの曲が見つからなかった場合は他の作曲家の曲になります。
第1回 (1927年)
- 第1位 レフ・オボーリン(ソ連)
- 第2位 Stanisław Szpinalski(ポーランド)
- 第3位 Róża Etkin-Moszkowska(ポーランド)
- 第4位 グリゴリー・ギンズブルク(ソ連)
ソ連出身のレフ・オボーリンというピアニストが優勝しています。
残念ながら演奏の映像は残っていないようです。
第2回 (1932年)
- 第1位 アレクサンドル・ウニンスキー(ソ連)
- 第2位 イムレ・ウンガル(ハンガリー)#同点で、コイン・トスによって順位を決めた。
- 第3位 Bolesław Kon(ポーランド)
- 第4位 Abram Lufer(ソ連)
- 第5位 ルイス・ケントナー(ハンガリー)
コイントスで優勝者を決めたそうです。
第3回 (1937年)
- 第1位 ヤコフ・ザーク(ソ連)
- 第2位 Roza Tamarkina(ソ連)
- 第3位 ヴィトルト・マウツジンスキ(ポーランド)
- 第4位 Lance Dossor(イギリス)
- 第5位 Agi Jambor(ハンガリー)
- 第6位 エディット・ピヒト=アクセンフェルト(ドイツ)
第4回 (1949年)
- 第1位 ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(ポーランド)、ベラ・ダヴィドヴィチ(ソ連)
- 第2位 Barbara Hesse-Bukowska(ポーランド)
- 第3位 Waldemar Maciszewski(ポーランド)
- 第4位 Georgi Muravlov(ソ連)
第5回 (1955年)
- 第1位 アダム・ハラシェヴィチ(ポーランド)
- 第2位 ウラディーミル・アシュケナージ(ソ連)
- 第3位 フー・ツォン(中国)
- 第4位 ベルナルド・リンガイゼン(フランス)
- 第5位 ナウム・シュタルクマン(ソ連)
第2位のアシュケナージは指揮者としても活躍しています。
審査員のミケランジェリがアシュケナージが優勝しなかったことに憤慨し、審査員を降りたことは有名な話です。
ミケランジェリもミスタッチのほぼ無い完璧な演奏をすることで有名で20世紀を代表するピアニストの一人です。
第6回 (1960年)
- 第1位 マウリツィオ・ポリーニ(イタリア)
- 第2位 イリーナ・ザリツカヤ(ソ連)
- 第3位 タニア・アショット=アルトゥニアン(イラン)
- 第4位 Li Min-Chan(中国)
ポリーニは西側から輩出された初めての優勝者でした。
審査委員長のルービンシュタインが「今ここにいる審査員の中で、彼より巧く弾けるものが果たしているであろうか」と賛辞を述べたのが有名ですね。
ポリーニが録音した練習曲集は数ある録音の中でも完璧さで有名です。
第7回 (1965年)
- 第1位 マルタ・アルゲリッチ(アルゼンチン)
- 第2位 アルトゥール・モレイラ・リマ(ブラジル)
- 第3位 マルタ・ソシンスカ(ポーランド)
- 第4位 中村紘子(日本)
アルゲリッチも現代最高峰のピアニストの一人ですね。
第8回 (1970年)
- 第1位 ギャリック・オールソン(アメリカ)
- 第2位 内田光子(日本)
- 第3位 ピョートル・パレチニ(ポーランド)
- 第4位 ユージン・インジック(アメリカ)
ギャリック・オールソンは日本での知名度が低いのですが、欧米では絶大な人気を誇ります。
内田光子は「世界の Uchida」として有名ですね。
第9回 (1975年)
史上最年少(18歳)で優勝したツィマーマンも現代最高峰のピアニストの一人に数えられることが多いです。
第10回 (1980年)
ダン・タイ・ソンは初めてショパンコンクールで優勝したアジア人ですね。これ以降アジア人の優勝者が続々輩出され始めます。
第11回 (1985年)
ブーニンは日本でも人気のあるピアニストの一人です。メリハリのある演奏が特徴的で、審査でも賛否が別れましたが、私は好きです。
今は確か日本に住んでいるですよね。
第12回 (1990年)
第12回は優勝者がいませんでしたが、ピアニストの横山幸雄さんが3位に入賞しています。
横山さんは辻井伸行さんの先生としても有名ですね。
第13回 (1995年)
- 第1位 該当者なし
- 第2位 フィリップ・ジュジアーノ(フランス)、アレクセイ・スルタノフ(ロシア)
- 第3位 ガブリエラ・モンテロ(アメリカ)
第13回も優勝者がいませんでした。
第14回 (2000年)
- 第1位 ユンディ・リ(中国)
- 第2位 イングリッド・フリッター(アルゼンチン)
- 第3位 アレクサンダー・コブリン(ロシア)
第14回には中国人ピアニストのユンディ・リが優勝しました。
第15回 (2005年)
- 第1位 ラファウ・ブレハッチ(ポーランド)
- 第2位 なし
- 第3位 イム・ドンヒョク(韓国)、イム・ドンミン(韓国)
久しぶりにポーランド出身のピアニストが優勝したとして話題になりました。
ブレハッチは風貌も少しショパンに似ているようです。
第16回 (2010年)
- 第1位 ユリアンナ・アヴデーエワ(ロシア)
- 第2位 ルーカス・ゲニューシャス(ロシア・リトアニア)、インゴルフ・ヴンダー(オーストリア)
- 第3位 ダニール・トリフォノフ(ロシア)
第16回では初めて女性ピアニストが優勝しました。
第17回 (2015年)
- 第1位 チョ・ソンジン(韓国)
- 第2位 シャルル・リシャール=アムラン(カナダ)
- 第3位 ケイト・リュウ(アメリカ)
第17回は韓国人ピアニストのチョ・ソンジンが優勝しました。
まとめ
今回はショパンコンピアノコンクールの歴代優勝者を演奏と共にまとめてみました。
同じ曲を弾いててもピアニストによってこんなに違った解釈がされるんですね。
ショパン自身がどのように弾いていたのかは音源が残っていないのでわかりません。
もしかしたら「そんな風に弾いてくれるな!」と怒り出すかもしれません。
しかし「ショパンを聴きたいんだけど誰の演奏を聞けばいいかわからない」という場合にはまず彼らの演奏を聴いてみるのが良いでしょう。
そして自分が「好きだな」と思った演奏をするピアニストの他の演奏もぜひ聴いてみましょう。
参考までに。
- 完璧で模範的 ポリーニ
- 激しくて情動的 アルゲリッチ
- 王道 ツィマーマン
- メリハリがある ブーニン
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