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「どうして死んじゃいけないのか?」吉野朔実「ぼくだけが知っている」を読んで

思っちゃったんだからしょうがない
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最近は毎日ブックオフに行ってせどりをしているのですが、何時間も本棚とスマホを凝視していると目が疲れます。

きっとせどりを本職にしている人は棚を数十秒見ただけで利益商品が出るのかどうかすぐに判断すると思いますが、私はいつも棚の端から端までほぼ全ての作品をリサーチするので大変な時間がかかります。

そのくせ1時間探しても一冊も利益商品が見つからないこともあるので非効率極まりません。

ただ、一冊一冊リサーチしていると過去に自分が読みたいと思っていて、でも機会がなくて結局一度も読むことが出来なかった作品に出会うこともあります。

先日飯能のブックオフで見つけた吉野朔実さんの作品「ぼくだけが知っている」もそんな作品でした。

文庫本で3冊あったのですが全て100円だったので購入しました。

そして家に戻ってきてストロング缶を3本飲みながら3巻全て読み通しました。

一言では言い表すことが出来ませんが、とりあえず素晴らしい作品です。

登場人物は豊かな感受性を持った主人公の男の子礼智とそのクラスメートです。

思春期になる前の不安的で強がってはいるが実は弱々しい小学生たちが色々なことを体験し、学び、知り、そして忘れて子どもから大人になっていく過程が子どもたちの視点からのみ描かれています。

何よりタイトルの「ぼくだけが知っている」が素晴らしいです。

扱われているテーマは多岐に渡りますが、最終話で扱われている「どうして死んじゃいけないのか?」というテーマが特に印象に残ったのでちょこっと紹介します。

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最終話のエピソード

最終話には礼智と瓜二つの同級生枷島十一(かしまじゅういち)が現れます。

吉野朔実の作品には双子が登場することが多いそうですが、今回は単に外見がそっくりの同級生です。

十一は礼智に「どうして死んじゃいけないのか?ぼくには全部わかっている。君もそうだ」と言い残してから歩道橋から線路に飛び降ります。

「君もそうだ」という言葉が強い力を持つのは十一と礼智がそっくりの顔立ちをしているからです。

つまり礼智にとって十一は鏡の中の自分であり、十一の言葉は自分の言葉のように聞こえてしまうのです。

※結局十一は全治3ヶ月の大怪我で死ぬことはありませんでした。

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「なぜ死んではいけないのか?」

礼智はクラスの学級委員長である今林くんに「どうして死んじゃいけないのか?」と尋ねます。

真面目で誰が見ても優等生タイプの今林くんは少し悩んだ後に「….痛そうだから」と答えます。

この回答は非常に模範的で多くの大人もこう答えると思いますが(その意味で今林くんは知的に早熟です)、十一には取るに足らない答えです。

十一は「死ねば痛みもない」と答えます。

今林くんは「死ぬのは痛そう(だから嫌だ)」と答えますが、十一は「死ねばそもそも痛みが無くなる」と答えます。

つまり今林くんの「痛いのが嫌だから死にたくない」という理由はそもそも死なない理由にならないのです。

しかしそれでも今林くんは「死ぬのは痛そうだから嫌だ」と答えるでしょう。

でも「痛そうだから嫌だ」という理由には「それじゃあ痛くなければ死んでもいいのか」という反論がありそうですよね。

例えば安楽死なんかは一切の痛みを伴うことなく静かに死ぬことが出来ます。

その場合には今林くんの「死ぬのは痛そうだから嫌だ」という理由はもはや成り立たなくなってしまいます。

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人が死んではいけない理由はない

結論として「どうして死んじゃいけないのか?」という問いには答えることが出来ません。

死んではいけない理由はないんです。

これは私にとっても恐るべき事実なのですが、世の中に生きている人たちの99%はこの事実をなんとも思っていないらしくて驚きます(まあそれが大人になるってことなんですが)。

「死んではいけない理由はない理由」については漫画の中に明確に描かれてはいませんが、そもそも大前提として我々の存在自体に理由がないことを知っておく必要があります。

「自分は親から生まれたのだから、ここに存在している理由はある」と考える人もいると思います。

でも親が産んだのは「息子A」「娘B」という名前を持った子どもであって、<あなた>ではないのです。

<あなた>は別に「息子R」でも「娘K」でもよかったのです。それがたまたま「息子A」や「娘B」に割り振られただけであって、そこに必然性はありません。

その意味であなたの存在には根拠が欠けています。

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存在根拠を与えてくれるのはいつだって他人

私がこの作品の中で特に好きなシーンがあります。

それは礼智が母親に「どうして死んじゃいけないの?」と尋ねるシーンです。

このシーンには本物の母親の愛情が描かれています。

母親は礼智の問いに「礼智が死んだら(私が)嫌だから」と答えます。

この答えは「どうして死んじゃいけないのか?」という問いを論理的に納得させる答えではありません。

でも実はこの問いに対してはこう答えるのが正しいのです。

上にも書きましたが、「どうして死んじゃいけないのか?」という問いに対して論理的に答えることは出来ません。

なぜならどんなに死ぬのがいけない理由をいったところで、そもそも生きていること(存在)には根拠がないのだから、「死ねば全て楽になる」で言いくるめられてしまうからです。

しかし「あなたが死んだら嫌だ」という答えを同じように言いくるめることは出来ません。

なぜならその人自身の存在には何の根拠がなくたって、死んでほしくないという人が1人でもいれば、それはその人が生きるべき理由になるし、それ以外には何も必要がないからです。

上のシーンが感動的なのは単に母親と息子の親子愛を描いているからではなく、人は他人との関わりによって存在理由が生まれるという我々が普段忘れている根本的原理を象徴的に描いているからでもあります。

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礼智と十一

礼智と瓜二つの十一は最終話になって唐突に登場したキャラクターですが、礼智の半身として描かれていることは明らかです。

「どうして死んじゃいけないのか?」という究極的な問いに対する答えを礼智と十一は知っています。

存在している根拠が無いのと同じで、別に死んだっていいということを2人は知っています。

でも2人が取った行動は違いました。

十一は歩道橋から飛び降り自殺を図りましたが、礼智は自分の存在根拠を他人(母親)に求めました。

きっとほとんどの人が十一の行動は間違っていて、礼智の行動が正しいと考えるでしょう。

私もそう思うし、結果として十一が生きていてよかったと思います。

最後のページで礼智はもう二度と十一と会うことは無いと悟ります。

「死んじゃいけない理由はない」という十一と完全に決別するのです。

これはつまり礼智が子どもから大人に近づいたということです。

大人になるということは「どうして死んじゃいけないのか?」なんてくだらないことを考えるのをやめて、ひたすら生産的な活動をすることです。

礼智は十一という自分の半身との出会いを通じて大人に一歩近づいたのです。

しかし大人になるということは同時に「本当のこと」を忘れ去ることでもあります。

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まとめ

お酒の勢いもあってかなりのデタラメを書き連ねてしまいました。

でもこの作品は本当に素晴らしくておすすめです。

主な登場人物は6人ほどいますが、全員個性的で自分が小学生の時にいたような、いなかったような、そんなことを懐かしみながら読み通してしまいました。

吉野朔実さんは一昨年お亡くなりになったそうですが残された作品はまだまだ輝きを放っています。

もし書店や古本屋で吉野さんの作品を見つけたらちょっと立ち読みしてみてください。

きっと買って帰らずにはいられなくなります。

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