この記事では山本英夫の「新のぞき屋」を90年代という時代性から論評をしています。kindleunlimitedで全巻無料で読むことが出来るので超おすすめです。
去年の8月くらいからkindle unlimitedを利用していて、これまでに月額980円で何百冊という漫画や雑誌や小説などを読んで来ました。
もちろん自分がタイムリーで読みたいと思った本が読める訳ではないのですが、そのおかげで予想もしなかった良い本に出会うこともあり、逆に満足しています。
今は初回30日間無料体験キャンペーンをやっているそうなので是非この機会に。
今回は僕が最近kindle unlimited のストアを見ていたらたまたま出会った「新のぞき屋」という漫画について簡単に書きます。
というよりも90年代という時代に対して僕が思ったことを中心に書きます。
「新のぞき屋」by 山本英夫
Kindle unlimitedだと全巻無料で読むことができます。
しかも初回30日無料体験。最初の一ヶ月だけ月額980円払わなくても読み放題です。
概要
タイトル通り「のぞき屋(NOZOKI-YA)」という名前で探偵業を営む主人公たちが、依頼者の依頼を受けてターゲットの生活を覗く(盗聴する)という漫画です。
ある時には(というかほぼ毎回)依頼調査の途中で主人公たちは何かしらのトラブルに巻き込まれて、その過程で人間の屈折した欲望や、現代社会(といっても90年代)の問題・などが浮き彫りにされていくという、その破廉恥なタイトルとは裏腹に社会派と言ってもいいくらいの内容です。
登場人物
見(ケン)
この漫画の主人公でもあり、幾多の事件をその眼で覗いてきた「のぞき」のプロ。
探偵ということもあり、盗聴やピッキングなど裏社会のあらゆる技術にも精通しています。
かつて「あるもの」を覗いたことのショックで自分の左眼をくりぬいてしまい、今は表面がブ厚いコンタクトレンズの義眼をはめています。
コンタクトは白く濁っており、その眼で人間の「心の奥」まで覗き込みます。
高見沢レイカ
有名進学校に通う女子高生。
美貌で、長い金髪を持ち、まさに90年代の女子高生という恰好をしています。
成績も学年トップ3に入るほどの秀才ですが、裏では売春斡旋の元締めをしていた一面もあります。
変態の父親から歪んだ愛情を受け、当初は父親が「のぞき屋」に素行調査を依頼していた「ターゲット」でしたが、見(ケン)らのぞき屋メンバーに救われた事をきっかけに「のぞき屋」のメンバーとなります。
スマイル
“のぞき屋”見習いです。見(ケン)の高校の後輩で、仕事は未熟ですが、常に熱いハートを忘れない見(ケン)の右腕的な存在。
普段は粋がっていますが実は奥手な童貞で、よく見(ケン)とピンサロに行っています。
聴(チョウ)
イルカ並みの聴力を持つ兄貴的存在。
年も一番上で昔は興信所で探偵をしていました。
豊富な経験を活かして見(ケン)をバックアップします。
ハスキー
のぞき屋で飼われている柴犬(?)です。よく知らないメス犬と交尾をして妊娠させています。
主要な登場人物はこの4人と1匹だけですが、その分それぞれの心の風景や過去などをかなり深いところまで掘り下げて描いています。
総括
1巻をたまたまダウンロードして読んでみて
これは面白い。続きが読みたい
と思って次々ダウンロードしていたらあっという間に11巻全てを読み切っていました。
12巻目をダウンロードしようとしたら、どうやら11巻で終わりらしく「えっこれで終わり?」となんとも言えない気分でした。
というのも最終巻というにはかなり後味の悪い唐突な終わり方だったからです。
依頼は無事解決したけど、まだ主人公自身の問題は何も解決していない、という感じでなんとももやもやした終わり方でした。
多分これが今連載中だったら「そのうち続編が出るだろう」と考えますが、なんせ20年以上前に最終巻が出てしまっているのでもう続きが出ることはないでしょう。
というか続きを描くことはもはや不可能と言ってもいいかも知れません。
というのは90年代と現在とはあまりに多くのことが違い過ぎるからです。
90年代の日本~「のぞき屋」の必然性~
「新のぞき屋」の連載は93年から97年。
この漫画が連載されている時期に僕はちょうど生まれました。
物心もついてないくらいです。
何が言いたいのかというと、要するに僕はこの漫画が連載されていた当時(93~97)の日本を自分で体験してはいないということです。
端的に僕はこの時代のことをあまりよく知りません。
ですが「新のぞき屋」を通してこの時代の日本がそれほど健全とは言えない社会だったことは雰囲気として伝わってきます。
バブルが崩壊した後、日本中が鬱屈とした空気に包まれ、若者は将来に対する希望を失っていました(今も同じようなものですが)。
彼らは徐々にふさぎ込むようになり、外側に心を閉ざすようになります。
そして上っ面だけで生活を送ることになるのです。
友達関係も家庭関係も男女関係も全て上っ面で、自分の心を閉ざして真っ暗闇の中で物質的なものだけを頼りにお互いをすり合わせていきます。
しかし、そんなのは所詮上っ面だから上手く行くはずがありません。
結局は疑心暗鬼に陥り、お互いを信用できなくなる、でも心は閉ざしたままだからどうしようもない。
そこに見(ケン)率いる「のぞき屋」が現れます。
彼らは自分たちの代わりに「のぞき屋」に相手の日常生活(心)を覗いて欲しいと依頼するのです。
つまり何が言いたいのかというと、見(ケン)の「のぞき屋」というが会社が(或いは探偵業が)90年代を舞台にしているということ、或いはこの漫画自体が93年から97年にかけて連載されたということは、必然的だったのではないかということ。
「のぞき屋」とは90年代に蔓延っていた社会全体の病気に対する処方箋のようなものだったのではないかということです。
また「のぞき屋」のメンバーである登場人物たち自身も処方箋の一部であるような気がします。
というのは彼らは全員一度社会の病気に罹った後、自分で克服した人たちだから。
彼は皆お互いに裏表がなく(少なくとも見以外は)、意見が合わない時はガチンコで喧嘩をします。
それはお互いを信じあっているからこそ出来るんだと思います。
欲求の純粋さ
そして何より見とスマイルと聴の男たち3人とハスキー(犬)は性欲に純粋です。
しかし、どういうわけかここにはいやらしさや後ろめたさが微塵も感じられません。
寧ろ読んでいるこっちは清々しく心地良い気分にさえなってきます。
これは何故かと考えてみたところ、やはり彼らの背景に90年代の鬱屈した暗い日本社会を見てしまうからなんじゃないかなと思います。
何もかもが上っ面な時代においては、彼らの姿は一時のそよ風のように映ります。
読み進めていくうちに、この性に対する純粋さやオープンさがどれほど個人にとって、或いは社会にとって良い効果をもたらすのかが分かってきます。
90年代前半というのは、オウムみたいな新興宗教が頭角を現し、心の底では精神的な支えを求め始めていた若者たちはそれに惹かれていった時代でもあります。
適当なことを書き連ねましたが、詳しいことは社会学者の宮台真司先生のご本を読むのが良いでしょう。
時代と漫画の関係性
村上春樹の小説の登場人物みたいなことを言いますが、漫画を描く時には「今の時代(社会)を反映させた漫画を描くか」、それとも「今の時代(社会)とは無関係の漫画を描くか」の2パターンあると思います。
村上龍が前半で、村上春樹は後半でしょう。
そして僕自身の小説を書いていた経験から言うと前半の「今の時代(社会)を反映させたものを描く(書く)」には時代性を感じ取る鋭い「感性」と、それを正確に表現する「表現力」のこの二つがどうしても必要なのではないかと思います。
そしてこの2つのものを兼ね備えた人は稀有で滅多に存在しません。
一方を兼ね備えた人はいます。僕の周りにもとにかく社会の変化に敏感な人や、絵や音楽などで自分を表現するのに長けた人は存在します。
でも両方を持っている人は本当に珍しいです。
多分生まれつきの才能のようなものですから、社会にはある一定数しか存在し得ないのでしょう。
ですが「新のぞき屋」の作者は明らかのその稀有な存在の一人です。
漫画の中の世界はまさにその当時の日本社会そのものであり、かつその社会で生きている人々の心の中を実にリアルに描いています。
まとめ~「新のぞき屋」はおススメです~
長々と、つらつらと、出鱈目を書いてきましたが、「新のぞき屋」は本当におススメです。
以下に僕の超個人的なおススメポイントを挙げます。
- ヒロインの高見沢レイカが美人
- 20年前のパソコンがちょっと登場する
- 20年前のハッキングがちょっと見れる
- 20年前の盗聴の仕方が分かる
- 20年前の日本の風景が見れる(あんまり変わってないけど)
- 社会学の研究材料になる
- 宮台先生が言ってたことがちょっと分かる
- kindle unlimitedだと全巻無料で読める
どうでしょうか?多分一個も共感しなかったと思います。
でも本当に面白い漫画なので是非kindle unlimitedで読んでみて下さい。
今なら初回30日間無料体験実施中です。
「殺し屋イチ」
山本英夫の別の作品「殺し屋1」も面白いです。こっちもぜひ読んでみましょう。
こっちもKindleunlimitedなら全巻無料で読めます。
こちらは一番最近の作品。
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