どうも。最近ようやく布団から出られるようになった者です。
つい先週平成に代わる新しい元号「令和」が発表されました。
なんでも出典元が日本最古の和歌集である「万葉集」の中の和歌にあるとかで話題にもなっています。
そして、あまり一般的には知られていませんが、もう1つ話題になっていることがあります。
それは皇位継承に合わせて実施される「恩赦」です。
数十年に一度くらいでしか実施されることも無い「恩赦」は平成生まれにとってはあまり聞き馴染みの無い言葉ですが、過去に犯罪を犯した人にとっては超重要なイベントです。
今回はその「恩赦」についてちょこっと調べてみました。
恩赦とは
恩赦とは裁判によらずに刑罰権を消滅させたり、裁判の内容や効力を消滅・軽減させたりする制度のことをいいます。
つまり簡単に言えば、犯罪者の罪を失くしたり、減刑したりする制度です。
そんなことできんの?
出来ます。恩赦法というちゃんとした法律で定められています。
もし、あなたが何かの罪を犯したとしても、たまたま恩赦の時期と被れば、その罪は帳消しになる可能性があるのです。
こんな制度があったことを知っている人はそう多くはないのではないでしょうか。
全員が恩赦の対象にはならない
恩赦は犯罪者の罪を失くす裏ワザ的な制度ですが、誰もが恩赦の対象になるわけではありません。
恩赦の対象とされるのは基本的に軽微な犯罪・被害者がいない犯罪に限定されるとされています。
殺人を犯した人が恩赦で無罪放免になるというようなことは被害者感情や社会全体への害悪を考えるとありえません。
ピエール瀧は恩赦の対象?
ピエール瀧、もし恩赦の対象になったら恩赦に感謝みたいな曲出して欲しい
— つむやか (@ezusagii) 2019年4月4日
ちょっと寄り道しますが、つい先日コカインを使用したとして麻薬取締法違反で逮捕・起訴されたピエール瀧ですが、彼は恩赦の対象になるのでしょうか。
コカインの使用は被害者がいるわけではないので恩赦の対象になりそうですが、社会的な影響を考えた場合ちょっと厳しそうです。
ただし今回の件で本人も十分な社会的損害を被ったので、その辺を考慮して恩赦が受けられる可能性はありそうです。
これまでの恩赦
恩赦は1500年以上ずっと続いてきました。
戦後だと、第二次大戦終結,日本国憲法公布,平和条約発効,皇太子立太子礼,国連加盟,皇太子成婚,明治百年記念,沖縄復帰記念などの国の体制が直接変化するような大イベントの際に実施されてきました。
- 昭和22年11月、終戦と日本国憲法公布:4750人
- 昭和27年4月、サンフランシスコ平和条約発効:100万6628人
- 昭和27年11月、皇太子殿下(今上天皇)立太子礼:3478人
- 昭和31年12月、国際連合加盟:7万1782人
- 昭和34年4月、皇太子殿下(今上天皇)ご成婚:4万8738人
- 昭和43年11月、明治100年記念:15万2818人
- 昭和47年5月、沖縄本土復帰:3万4503人
- 平成元年2月、昭和天皇ご大喪:約1017万人
- 平成2年11月、今上天皇ご即位:約250万人
- 平成5年6月、皇太子殿下ご成婚:1277人
恩赦の歴史
恩赦の歴史は古く、記録によると487年の顕宗天皇崩御から行われるようになったようです。
恩赦制度は元々日本には無く、中国の制度を真似たようですが、現在ではほとんど多くの国で採用されている制度です。
古くから恩赦は君主の権限であったこともあり、国家的な慶弔の機会に君主の仁慈による特典として行われたり、国民が揃って慶弔を行うという建前に基づき行われることが多かった。(wikipedia)
民主主義・共和制が誕生する前は国家と言えば「君主制」が当たり前でした。
要するに「王さま」と「国民」です。
国民は王さまの為に毎日働いたり、時には戦争で命を落としたりします。
また、王さまが作った法律を守って生活しています。
つまり王さまとしては国民に対して「俺のために毎日働いてくれたり、戦争に行ってくれてありがとう!」という恩があるわけです(少なくとも名目上は)。
そしてその王さまが死んだ場合(あるいは国家的な慶弔があった場合)、次の王さまはこれまで色々と助けてくれた国民に対して感謝の気持ちとして贈り物をする必要があります。
しかし贈り物と言っても国民全員にお金をあげたり土地をあげたりすることは出来ません。
そこで王さまは「じゃあ、これまでの罪を赦してあげよう」といって、法律を破って罰せられた人たちの罪を帳消しにしました。
これが後々の「恩赦」の起源になります。
江戸時代の恩赦
江戸時代の日本は徳川幕府によって支配されていましたが、ちゃんと恩赦の制度は存在していました。
有名なのは犬好きで知られる5代目将軍徳川綱吉が制定した「生類憐みの令」の廃止です。
この法律は犬、猫、鳥、魚類、貝類、昆虫類などの生き物を殺すことを禁じていて、当時の人たちからも「悪法」と呼ばれていました。
綱吉は次の将軍徳川家宣にもこの法律の存続を頼みましたが、6代目となった家宣はすぐに廃止し、この法律を破った罪で罰を受けた人たちを赦免しました。
このように、恩赦には君主の代替わりに際して、前君主における悪政とされるものを実質的に正すという機能もあったようです。
世界各国の恩赦
日本以外にも恩赦を設けている国は世界中にいくつもあります。
主要な国で見ると
- アメリカ
- フランス
- ロシア
- ドイツ
- バチカン市国
- ブラジル
- オーストラリア
- モロッコ
- タイ
- 韓国
に恩赦の制度があります。
ただしそれぞれの国で運用の仕方が異なっていて、例えばブラジルでは不法滞在の外国人を主に対象とした期間限定の恩赦法が制定されていたり、タイでは王室の慶事または国王の長寿を祝う度に毎年特赦が行われていたりします。
韓国の特赦は他の国に比べて回数、対象人数ともに群を抜いていて、1948年の建国から2016年8月までで96回の特赦を実行し、軽微な犯罪(道路交通法違反など)も含めると合計で数千万人の人が特赦で復権したり、減刑されたり、刑務所から釈放されたりしていす。
恩赦の種類
恩赦には大きく分けて「政令恩赦」と「個別恩赦」があります。
政令恩赦
政令恩赦とは「政令で対象となる罪や刑を決めて、該当者を一律に救済する」ことを言います。
例えば
住居侵入罪で起訴された奴ら全員無罪!ヒャッホウ!
のように罪を犯した人たちを一律で無罪放免にしたりする制度です。
具体的には
- 大赦
- 一般減刑
- 一般復権
の3つがあります。
大赦
大赦は「有罪判決を受けた者の判決の効力を失くすこと」です。
恩赦の中でも一番慈悲深い赦しで、上の住居侵入罪の例に当ります。
一般減刑
一般減刑はその名の通り「罪を軽くすること」です。
有罪判決を受けた人の罪自体は無くなりませんが、例えば「懲役3年」が「懲役1年」になったり、「死刑」が「無期懲役」になったりすることを言います。
一般復権
一般復権とは「喪失した資格を回復すること」を言います。
あまり知られていませんが、過去に有罪判決を受けた人は一定期間就くことが出来ない職業があります。
公務員、弁護士、警察官、医師など社会的に特に誠実さを求められる職種については、刑期満了から一定期間時間が経たなければ資格試験を受けることも出来ません。
しかし恩赦によって復権出来れば、これらの資格を回復させることが出来ます。
個別恩赦
個別恩赦は一律に該当者を救済する政令恩赦とは異なり,個々の事案について犯情,性格,行状,犯罪後の状況,再犯のおそれの有無等を調査審査します。
個別恩赦の場合は本人の申請に基づいて個別に中央更生保護審査会が審査するという手順になります。
つまり自分から
恩赦ください!更生します!!お願いします!!
と中央更生保護審議会に言わなければいけないのです。
個別恩赦には次の4つがあります。
- 特赦
- 刑の執行免除
- 特別減刑
- 特別復権
「特別」とありますが、これは政令恩赦と個別恩赦を区別するために付けられたものであり、基本的な効力は政令恩赦と変わりません。
恩赦の意義
恩赦は裁判によらずに犯罪者の前科を消滅・減刑させる制度。
つまり司法機関ではなく行政機関によってなされる行為であるため、政治的な意味合いを持つこともあります。
戦後日本語国際連合に復帰した時にも恩赦がなされましたが、その際に恩赦を受けた人の中には、公職選挙法違反や政治資金規正法違反で罰せられた人たちが含まれており、この制度自体の存在意義についても議論されました。
しかし依然として恩赦は存続しており、むしろ世界各国でも活発に取り入れられている制度であると言えます。
その理由は次の3つにあると考えられています。
犯罪者の社会復帰・更生促進
一度でも犯罪を犯してしまうと、本人がどんなに反省していても日常生活に支障をきたすことがあります。
上で書いたように特定の職業に就くことが制限されることもありますし、就職活動をする時にも経歴書に「賞罰欄」があれば、そこに過去に受けた罰について記載する必要性が出てきます。
犯した罪の種類によっては直接関係のない家族や知人を巻き込んで迷惑をかけてしまうこともあります。
そのことでせっかく罪を償って更生して真面目に生きていこうとしている人でも
ふざけやがって。もう一回犯罪犯してやる。
という風に再び犯罪行為に手を染めてしまう恐れもあり、これは社会全体にとっては良いことではありません。
そこに恩赦のように過去の罪を消滅させるような制度があれば
恩赦で罪も消えたし、今度は真面目に生きるか。
という風に犯罪者の更生に繋がります。
過去に犯罪を犯した人であっても、今後社会全体にとって益となるような人であれば、普通に生活してもらった方が社会全体にとって良いわけです。
社会の変化
時代や社会情勢によって我々の常識・倫理観は絶えず変わっています。
例えば1973年までは尊属殺(親子間の殺人)の罪は死刑か無期懲役に限定されていました。
しかし1973年に起こった栃木実父殺害事件において、最高裁によって「尊属殺は違憲」とされました。
つまりこれまであった罰則が消滅したのです。
しかしながら、1973年以前に尊属殺で死刑か無期懲役を受けた者に対しては司法的な救済が出来ないので、個別恩赦という制度によって減刑することになりました。
このように司法制度の欠陥を埋め合わせるためにも裁判によらない救済措置としての恩赦が必要とされるのです。
誤審救済
冤罪によって有罪判決を受けてしまった人は大きな社会的ダメージを負ってしまいます。
仮にその事件が冤罪である新たな証拠が出て来たとしても、再審請求をするには法的安定性の見地から上訴と比較して厳格な要件が求められます。
その時に恩赦によって冤罪を被された人を救済することも出来ます。
まとめ
今回は平成から令和に改元するということで、裁判によらずに刑罰権を消滅させたり、裁判の内容や効力を消滅・軽減させたりする制度「恩赦」について調べてみました。
今上天皇が即位した際には250万人以上が恩赦の対象となったとのことですので、今回もそれくらいの人数の人が対象になるのではないかと思います。
というよりもそれだけの数の犯罪者が日本にいたことが驚きですね(ちなみに昭和天皇崩御の際に恩赦を受けた人は1000万人以上)。
まあ公道を30キロオーバーで走ったとしても立派な刑事罰に相当しますからそれくらいいても不思議ではないのかもしれません。
とはいえ今回はの皇位継承は今上天皇が御存命のまま執り行われるということなので、それが恩赦にどう影響するのかは分かりません。
令和元年まであと3週間です。一体どうなるのでしょうか。
コメント